今回はネタバレ有の解説となっています。ネタバレNGの人は先に『朽ちないサクラ』を読んでから見てください。
書籍紹介
警察のあきれた怠慢のせいでストーカー被害者は殺された!? 警察不祥事のスクープ記事。新聞記者の親友に裏切られた……口止めした泉(いずみ)は愕然とする。情報漏洩の犯人探しで県警内部が揺れる中、親友が遺体で発見された。警察広報職員の泉は、警察学校の同期・磯川刑事と独自に調査を始める。次第に核心に迫る二人の前にちらつく新たな不審の影。事件には思いも寄らぬ醜い闇が潜んでいた。(解説:村上貴史)
Amazonより
作 者:柚月 裕子
出版社:徳間書店
発売日:2018年3月7日
続編である『月下のサクラ』も好評発売中
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ネタバレ有となっていますのでご注意ください。
【2024年6月21日公開】実写映画化
2024年6月21日(金)公開
2024年製作/日本
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
原作小説と映画の違いについてまとめました。こちらもあわせてご覧ください。
↓ ↓ ↓ネタバレ有です!ご注意を↓ ↓ ↓
キャスト(映画)
- 森口 泉・・・・杉咲 花
- 富樫 隆幸・・・安田 顕
- 磯川 俊一・・・萩原 利久
- 梶山 浩介・・・豊原 功補
- 津村 千佳・・・森田 想
- 辺見 学・・・・坂東 巳之助
- 兵藤 洋・・・・駿河 太郎
- 津村 雅子・・・藤田 朋子
登場人物
米崎県警警察署
◯森口 泉(もりぐち いずみ)
本作の主人公。4年前に一般職採用で県警に採用される。広報広聴課県民安全相談係の事務職員。小学生の頃に父が交通事故で亡くなり母子家庭で育つ。
●富樫 隆幸(とがし たかゆき)
広報広聴課の課長。以前は公安に所属するやり手だった。昔の呼び名は“公安のタカ”。
◯梶山浩介(かじやま こうすけ)
捜査一課長。富樫と同期。津村千佳の殺害事件を捜査する。
●臼澤(うすざわ)
警備部公安課長。梶山の後輩で交番勤務の頃に警察手帳を紛失した時梶山に助けられる。
平井中央署
◯磯川 俊一(いそかわ しゅんいち)
生活安全課。警察学校の研修時代に泉と知り合う。泉に想いを寄せ月に一度のペースで食事するが恋人としての進展はない。
●杉林正一郎(すぎばやし しょういちろう)
生活安全課の課長。とある重大な秘密を抱えている。
◯辺見 学(へんみ まなぶ)
生活安全課のベテラン巡査長。相談者に真摯に向き合う誠実な職員だが、女子大生・長岡愛梨のストーカー被害に関してだけ冷たい対応をする。
●百瀬 美咲(ももせ みさき)
生活安全課の臨時職員。本人は契約更新を望んだが認められず退職する。
◯高田 彰子(たかだ しょうこ)
生活安全課の職員。磯川とは親子ほど年が違う。優しい性格で百瀬からの相談にも乗っていた。
米崎新聞
◯津村 千佳(つむら ちか)
米崎新聞の県警担当記者。泉とは高校の同級生で親友。泉と同じく母子家庭で育つ。上司の兵藤とは不倫関係。泉と会った1週間後に遺体で発見される。
●兵藤 洋(ひょうどう ひろし)
米崎新聞報道部のデスク。千佳の不倫相手。
その他
◯長岡 愛梨(ながおか あいり)
安西に殺害された女子大学生。
●安西 秀人(あんざい ひでと)
長岡愛梨を殺害した犯人。自称フリーター。
◯津村 雅子(つむら まさこ)
千佳の母親。千佳にとって唯一の肉親。
話の構成とあらすじ
一章 二章 三章
四章 五章 終章
本書は6章構成です。
ここから先は本編のネタバレを含みます。お気をつけください。
1章
米崎県警察署広報広聴課
課長の富樫隆幸のもとに課長補佐の高橋惣一と、その下に県民完全相談係係長の根岸友和と情報公開係係長の竹田勝が在籍。さらにそれぞれの係に5名ずつの課員がいる。
平井市女子大生ストーカー殺人事件
4月2日、午前0時30分頃、平井市光南町の路上で、女性が男に刃物で刺された。被害者の名前は長岡愛梨さん、21歳。平井市にある自宅から、米崎市の大学に通っていた女子大生。犯人は安西秀人、34歳。自称フリーターで、以前から愛梨さんにストーカー行為を行っていた。安西は愛梨さんを刺したあと現場から逃走したが、二日後に米崎市の中心部から離れた大森公園近くをうろついていたところを、巡回中の警察官が発見、逮捕された。
警察の失態か!?被害届を受理せず
愛梨が執拗にストーカー行為を受けていたため両親は警察に相談した。しかし、平井中央警察署の生活安全課で対応した課員は安西がやったものか確証がないとして取り合わなかった。愛梨の両親が弁護士を立てると詰め寄るとようやく捜査を開始することを決めた。しかし、被害届の受理期日を1週間引き伸ばした結果、その2日後に愛梨さんは殺害された。
受理期日引き伸ばしの理由
受理期日を1週間引き伸ばした警察をマスコミはバッシングする。当初警察は両親に説明した通り課員が他の事件捜査で多忙を極めていたためと主張を繰り返した。しかし、事実は違っていた。 両親が被害届を持ち込んだ日から数日後に所轄署職員の慰安旅行が控えており、被害届を受理すると手続きのため旅行に行けなくなると判断した職員が、被害届を受け付けなかったのだ。
どこから情報が漏れたのか
平井中央警察署の失態のせいで米崎県警察署広報広聴課の電話は鳴り止まない。富樫と高橋はこの記事が地元の米崎新聞、1社だけの特ダネだったことから警察内部の誰かが漏らしたと考える。
米崎新聞社の記者、津村からのメール
昼休み中、泉が警察署のPCメールを開くと米崎新聞社の記者、津村からメールが届いていることに気づく。内容は「話したいことがあるから、今夜、会えないか」というものだった。泉は悩んだ挙げ句、行きつけのイタリア料理店「ルース」で会おうと提案する。数分後、津村から「了解」と返事がきた。
泉と津村千佳の関係
泉と千佳は高校の同級生だった。お互いに母子家庭だったこともあり心を通わせる。大学に進学すると少しずつ連絡をとらなくなっていったが、それでも声を聞けばお互い昨日あったばかりのように話し合えた。泉と千佳が再会したのは4年前、泉が米崎県警広報広聴課に勤務してからだった。泉が記者クラブへ挨拶に行くとそこに千佳がいたのだった。
記事を書いたのは千佳?
記事が出る2日前、泉は千佳と食事をしているときに慰安旅行のことをうっかり千佳に漏らしてしまったのだ。このことは記事にしないように千佳にお願いをして千佳もわかったと答えていた。それでも泉は記事を書いたのは千佳なのではないかと疑っていた。というのも今回の女子大生ストーカー殺人事件で、”所轄の課員が多忙を理由に受理を引き延ばしていた”という特ダネを各社がいっせいに記事にしたとき、米崎新聞だけが特オチした。1社だけ特ダネを落とした責任は、サツ回りを担当する千佳が負うことになった。特オチした汚名を晴らすため、泉との約束を破ってまで記事にしたのではと泉は考えていた。
川で発見された女性の遺体
泉と千佳が食事をして1週間がたったある日、女性の遺体が上野川下流で発見された。身元確認の結果、遺体はなんと津村千佳だったのだ。この事実に泉は大きな衝撃を受ける。1週間前食事をした時、「この件には、なにか裏がある気がする。調べてみる価値はある、泉から押された裏切り者の烙印を、必ず消してみせる」とネタ元の調査に千佳は意気込んでいた。
富樫からの尋問
千佳の葬儀に出席した泉は一緒に参列していた富樫から飲みに誘われる。富樫は泉と千佳が親友だったこと、慰安旅行の記事が出た日に千佳が泉に会おうと連絡をとってきたことを知っていた。捜査の結果、千佳は何者かに殺されたことを富樫から教えてもらう。千佳が米崎新聞の報道部デスク、兵藤洋と不倫関係だったことを泉は富樫に打ち明けた。
千佳の死因
千佳の死因は司法解剖の結果、溺死と判明した。しかし、肺に残った水の成分から川で溺れたわけではなく別な場所で溺死させられて事故か自殺に見せかけるため遺体を犯人が川に捨てたのではないかと考えられていた。また、首から鬱血痕も見つかり、成人男性の手のひら大ほどの大きさから男性の犯行と睨んでいるとのこと。以上のことから計画的犯行の可能性が高まる。
2章
平井中央署の辺見学巡査長
長岡愛梨の両親の応対は辺見学巡査長が担当した。辺見は穏やかな性格で人の陰口や仕事への不満を言わない人間で生活安全課の窓口を訪ねる相談者と真摯に向き合っていた。だが、新聞で叩かれた女子大生ストーカー事案に関して、珍しく冷たい態度をとったのであった。訪ねてきた両親に居留守を使って会わない日もことも。最終的に被害届を受理したが、職務多忙を理由に被害届の受理を1週間先延ばししていた。
泉と磯川俊一の密会
磯川と泉は連絡をとって『日和』という洋風居酒屋で食事をすることになった。そこで殺害された津村千佳は高校の同級生で親友だったと磯川に明かす。さらに自分の手で千佳を殺したは人を捕まえたいからお互いに知っている情報を共有しないかと泉は磯川に持ちかける。泉に心を動かされた磯川は協力することを約束した。
捜査一課長梶山による事情聴取
泉の事情聴取には上司である富樫も立ち会うことになった。
◯最後にあった日「ルース」で食事をとったこと
●米崎新聞がすっぱ抜いた記事に関して口論になったこと
◯千佳が泉にこの事件には裏があると言い残して消えたこと
●1週間後平井医師上野川下流で千佳の遺体が発見されたこと
を梶山は泉に確認した。
さらに千佳が小先市(上成宮町)に向かっている記録がNシステムに残っていたため、なにか心当たりはないかと泉は質問される。泉は心当たりはないと返答した。千佳の母親にも同じ質問をしたが泉と同じ回答だった。千佳の不倫相手で米崎新聞報道部デスクの兵藤も心当たりがないと回答。また、米崎新聞のスクープのネタ元は黙秘権を使っている。
鑑識が千佳の車を調べたら、毛髪、靴底の土や砂、何一つ残されていなかった。多くの場合は何かしらの遺留物が残っているが何も発見されなかったということはくまなく掃除をしたことがわかる。そこから浮かぶ犯人像は警察の捜査に詳しい人物ということだった。
◯兵藤はスクープネタをどこから仕入れたのか?
●千佳はなぜ小先市上成宮町に行ったのか?
この2つの疑問が事件を解決に導く鍵となる。
小先市にゆかりのある人物を発見
梶山の事情聴取での情報を泉からもらった磯川は平井中央署の食堂で聞き込みを行った。すると総務課の小栗良美と矢口巴から生活安全課にいた百瀬美咲が小先市出身だと教えてくれた。しかし、臨時職員だった百瀬は前年度末で契約の更新が切れて3月いっぱいで退職していたのだ。しかも本人は更新を望んでいたのにできなかったと何やら裏がありそうな話だったが、小栗と矢口からはその理由を教えてもらえなかった。
百瀬が契約更新できなかった理由
磯川は同じ課の高田から事情を聞き出すことに成功した。なんと当時の百瀬は不倫をしていた。しかも相手は警察内部の人間で契約を更新するか、しないかの決定権を持っている人物であることがわかった。そう___そんなことができる人物はひとりしかいない。
生活安全課課長の杉林だ。
3章
千佳の実家を訪ねる泉
千佳の遺影に手をあわせると、泉は千佳がもうこの世にいないことを実感する。泉は最近千佳に変わったことがなかったかと千佳の母に尋ねた。すると携帯で誰かに「一度、会って話したほうがいいですね」と面会を促していたということがわかった。しかし、それがプライベートか取材の依頼かまではわからなかった。
泉と磯川の情報共有
洋風居酒屋の『日和』で食事をしながら情報共有をした。
◯百瀬美咲という小先市出身の臨時職員がいて3月に退職していたこと
●百瀬は生活安全課の課長である杉林と不倫関係にあったこと
◯杉林が心変わりして別れを拒む百瀬を臨時の更新を打ち切って突き放したこと
百瀬の実家は小先市の上成宮町で千佳が遺体で発見される2日前に向かっていた場所とも一致する。百瀬は生活安全課を窮地に追い込むことで杉林に復讐しようとしていたのだ。
百瀬美咲の実家へ
泉と磯川は百瀬の実家を訪ねる。チャイムを鳴らすと中から男性が出てきた。「美咲さんはご在宅ですか」と尋ねると美咲の父から「何も知らないんですか?今日は美咲の葬儀でした」と言われる。亡くなったのは4月25日で千佳が亡くなった2日後だった。さらに死因は自殺という。父親に了承を得て百瀬の手帳を見させてもらう。すると4月15日の欄に『ボン・ヂア PM7:00』その下にはある固定電話の電話番号が記されていた。
ボン・ヂアと4月15日と不可解な点
ボン・ヂアは洋風居酒屋で地元米崎新聞の記者たちの隠れ家的存在の店だった。そしてメモに書かれた日付の4月15日は米崎新聞に平井中央署の慰安旅行の記事が載った前日。メモに記された固定電話の電話番号はボン・ヂアのものとは違った。
◯恨みを晴らした者が自ら命を断つのだろうか
●平井中央署の中で百瀬の死が署員の口にあがらないこと
ボン・ヂアでの情報収集
泉と磯川はボン・ヂアへ情報収集へ向かう。磯川は総務の広報担当から米崎新聞報道部デスク直通の電話番号を教えてもらった。その番号は百瀬の手帳に書いてある番号と一致。さらに店員へ探りを入れると4月15日に兵藤は百瀬とボン・ヂアに来ていたことが判明した。
安西秀人の正体
ボン・ヂアで手に入れた情報を泉は富樫に報告する。すると富樫から長岡愛梨を殺した安西秀人がカルト教団ソノフの信者だったと教えてもらう。ソノフの前身は神経ガスを使ったテロ事件を起こしたカルト教団テラス・ポース。そしてソノフの支部が米崎市にあることも教えてもらう。公安警察は今もなおソノフを監視し続けている。
公安警察と刑事警察
公安が安西を監視していたのなら長岡愛梨につきまとっていたことを知っていたはずでなんらかの方法で長岡愛梨を守ることはできなかったのかと泉は富樫に疑問をぶつける。国民からすれば同じ警察組織であることには変わりないが、公安警察と刑事警察は全く別な管轄でお互いに捜査協力はせずそれぞれの事情で動いているから協力は無理だと富樫から一蹴される。富樫からの説明を受けても泉は釈然としなかった。国民の安全と生活を守るという同じ目的を掲げる組織でありながら、連携が取れていないことに泉は疑問を覚える。
磯川の推理
泉から富樫とのやり取りを聞いた磯川は長岡愛梨のストーカー事件を担当した辺見がソノフから圧力を受けていたのではないかと推理して辺見に直接聞いてみることを決心する。
4章
辺見と磯川の密会
磯川と辺見は居酒屋「おまつ」の一室にいた。
そこで自身の推理を辺見へぶつけた。
◯長岡愛梨の両親を避けた理由にソノフが関係しているのではないか
●愛梨の問題を揉み消すために担当者である辺見に接触して圧力をかけた
◯弁護士を立てると主張する愛梨の両親に追い込まれた辺見は被害届を受理しなければならなくなった
●ソノフと愛梨の両親の間で苦しんだ結果、被害届の受理が1週間遅れてしまい2日後に愛梨は安西に殺害された
磯川の推理を聞いた辺見は明らかに動揺して激昂する。そして「自分は警察官で自身に危険が迫ったとしても、市民を守る義務がある。そう思ってもどうしようもないこともある。この件に首を突っ込むのはやめろ」と辺見は磯川に言った。
辺見の様子を察するに辺見はソノフの圧力には屈していなかったが、それ以外に愛梨の一件から手を引かなければいけない事情があった。おそらくその圧力がこの事件を解く重要な手掛かりになるはずだが、その正体までは掴めなかった。
百瀬自殺説が揺らぐ情報
富樫はかつての部下で現在は小先警察署の刑事課長である野村明に話を聞いた。すると、百瀬の車内からハローワークで閲覧した求人情報のコピーが出てきてその日付が自殺した日と一致。これから死のうとしている人間が求人情報など必要としないはずだ。しかし、署長から百瀬に関する調べを打ち切れとの指示を受けて捜査は打ち切りとなる。平井中央署に百瀬に関して問い合わせがなかったのは署長の指示だったのだ。
辺見の退職
磯川がいつも通り出勤してくると朝礼で驚愕の事実が告げられる。それは辺見が昨日一身上の都合で辞職届を提出し、それを受理したというものだった。磯川が辺見の自宅へ電話をすると奥さんが対応した。そこで2ヶ月ほど前から精神科に通院して精神安定剤をもらっていることや1週間ほど前に警察官を辞めると言い出したこと、奥さんが辺見に休職を提案したが気持ちは変わらなかったこと、そして「もう、なにを信じればいいのかわからない」と辺見が漏らしていたことを教えてもらう。磯川は同僚にも退職の理由を尋ねるが今回の件で精神的に追い込まれていたのだろうとみんな漏らすばかりだった。
暗躍するサクラ
辺見の件を聞いた泉はすぐに富樫と梶山に報告する。すると、捜査員が自分の職務に失望する時、それは警察組織のあり方に疑問や不満を抱いたときであると富樫は話す。そして、その裏にサクラが絡んでいるのではないかと梶山は推論した。
公安警察の暗号名。最近はゼロと呼ぶ者が多い。主な捜査対象は極左や極右、カルト。職務は諜報活動などの秘匿性が高いもので、鉄壁の秘密保持が求められる。公安警察には国家を守るという大義があり、職責を遂行するためなら、裏から手を回して捜査に介入し妨害するのも厭わない。
公安への交渉
梶山は県警の警備部公安課長の臼澤に交渉するため警備部へと向かう。臼澤は若い頃警察手帳を紛失したが梶山の助けもあり事なきを得た。そのため臼澤は梶山に大変な恩義があるのだ。梶山は臼澤にソノフの信者リストを出してほしいと迫る。しかし、臼澤の返事はノーだった。たとえ警察を辞めることになっても無理だと告げる。交渉決裂になって意気消沈している梶山を見かねた富樫は「俺に任せて2,3日待ってろ」と言うのであった。そう富樫の昔の呼び名は『公安のタカ』
5章
ソノフ信者リスト
富樫はなんとソノフの信者リストをゲットしたのだ。梶山は驚きを隠せないがリストを受け取るとすぐに部下の岸田へ指示を出す。リストの中から車を所有している者の割り出しと車の情報を調べ、千佳が殺害された日の現場近くの主要道路と百瀬が自殺した日の小先市の主要道路に取り付けられているNシステムの解析映像にその車が映っていないか確かめること。そしてこのリストがソノフ信者であることは伏せて絶対外に漏らすなと下命した。Nシステムの解析画像と捜査対象者所有の車を照合したがヒットしなかった。
富樫からの助言
富樫と出くわした梶山は車両が出てこないことを打ち明けた。すると、富樫から「わナンバー(=レンタカー)は調べたのか」と尋ねられて梶山は”はっ”とする。岸田にすぐ指示を出すと該当車両が見つかった。問題の車両を借りたのは、浅羽弘毅という人物だった。捜査の結果、千佳が殺害された時刻と百瀬が自殺した時刻に浅羽のアリバイはなかった。
急転直下の展開
捜査の結果、レンタカーの貸出記録や千佳と百瀬の死亡時刻にアリバイがないこと、そして現場付近での目撃情報が揃ったため事件の重要参考人として浅羽に任意同行を求める方針を固める。刑事部長の坂上から内諾を得た直後に梶山は岸田から驚愕の報告を受ける。なんと、浅羽が事故で死亡したのだ。事故の原因はブレーキホースが破損していたことからブレーキが効かず電柱に激突したというもので単独事故だった。
C・T行動記録
浅羽の自宅から押収したパソコンから津村千佳の行動を監視していた記録が出てきた。それには平井中央署の不祥事が米崎新聞にすっぱ抜かれた4月16日から千佳が遺体で発見される前日の4月22日までおよそ1週間分の千佳の行動が記されていた。千佳が自宅を出た時間や退社後の行動、誰とどこで会い食事をして何時に帰宅したのかが箇条書きで書かれていた。
浅羽の犯行を決定づける証拠
鑑定の結果、浅羽の靴に付着していた二ヶ所の土の成分が千佳と百瀬の遺体が発見された場所のものと一致。そして、浅羽の衣類から千佳の毛髪が見つかる。さらに浅羽のパソコンに残されていた津村千佳の行動記録。これだけ物的証拠が揃えば、被疑者死亡とはいえ充分送検できると梶山は判断する。
ある違和感
浅羽が被疑者死亡で送検されたあと泉は千佳の母を心配して自宅を訪ねた。すると、千佳の母は最期の1週間の行動を知りたいから教えてくれないかと泉に頼む。泉は梶山にお願いすることにした。梶山は外部に漏らせない捜査情報や個人情報を伏せた状態で泉に渡してくれた。それを受け取った泉はある箇所に違和感を持つ。それは____
「4月16日。19時、ルース、女と会う。」
浅羽は米崎新聞が平井中央署の不祥事を記事にした日から千佳を監視しているが、その段階で千佳をマークしている事がおかしいことに気づく。泉は北海道土産の話を千佳にしたからこの特ダネに千佳が関係していると考えたがそれを浅羽が知っているはずないのだ。
そう___4月16日の夜に泉と千佳がルースで会っていたと知る人物は
富樫と梶山、そして磯川の3人
終章
泉の推理
浅羽が送検されて1週間が経ったある日、泉は富樫と酒を酌み交わしていた。そこで千佳と百瀬を殺した犯人は浅羽ではなく何者かが千佳の行動記録を事後に作成し、浅羽のパソコンに残して犯人に仕立て上げたのではないかと推理を披露する。そして、それがそれが事実と仮定して可能なのは警察内部の人間。また警察の捜査に詳しいという人物像にも合致する。
今回の事件で利を得たのは___
泉は今回の事件に関わったほとんどの人が、苦難を強いられたが唯一、特をした者がいると主張する。それは___
公安警察
カルト教信者の逮捕後メディアはカルト教団の危険性を叫び、公共の安全と秩序の維持を目的とする公安警察の必要性を説いた。中には公安警察の活躍を迫った緊急特番を組んだテレビ局まである。
◯平井中央署
マスコミの矛先がカルトに変わったが生活安全課は課長の杉林が不倫の事実が上層部にバレて左遷となり以前より混乱している。
●辺見巡査長
退職後家に引きこもり電話を繋いでほしいと奥さんにお願いするもそっとしておいてほしいと断られる。
◯米崎新聞
報道部デスクの兵藤が異動となる。理由はおそらく杉林と同じ。
●被害者遺族
千佳と百瀬の遺族はこれからも深い悲しみを抱き、生きていかなければいけない。
安西と浅羽の正体
長岡愛梨を殺害した安西や事故死した浅羽は公安のスパイだったのではないか。安西を刑事警察にマークされたくなかった公安は杉林課長に圧力をかけて部下の辺見に被害届を受理しないように指示を出した。そして辺見は刑事警察と公安警察の間で苦しみ、警察組織のあり方に幻滅して辞職した。さらに真相にたどり着きそうになった千佳と百瀬を殺すよう公安は浅羽に命じて浅羽も公安に口封じのために殺されたのではないかと泉は主張した。
絵図を書いた人物は___
千佳の情報を公安に流して浅羽が2人を殺すように仕向けた人間は
富樫課長
あなたなのではないかと泉は詰め寄ります。これに富樫は否定も肯定もせず。元公安の富樫には今回の貢献により公安の重要なポストが用意されているのではないかと泉はさらに詰め寄るが富樫はまともに取り合おうとはしない。
泉の決意
富樫の態度に怒りがこみ上げてきた泉は「私は富樫課長をー公安を、許しません」と言い放った。これに対して「きれいごとじゃあ、国は守れん」「警察を辞めてもいいぞ。この仕事は理不尽なことが多すぎる」と富樫は言い残し部屋を出ていった。店を出た泉は磯川に電話をかける。そして「警察を辞めて、もう一度警察を受ける」「私、警察官になる」と伝える。―犠牲の上に、治定があってはならないと確固たる意志を胸に秘めて泉は前に向かって歩きはじめるのであった。
まとめ&気になる続編は?
『朽ちないサクラ』は、親友を失った県警事務員が独自に事件を捜査し真相にたどりつくまでを刑事警察と公安警察との関係、警察内部の事情を交えながら描いたサスペンスです。本書のいたるところに出てくるそれぞれの行きつけの飲食店の描写がリアルなところが個人的によかったです。
また、メインの事件については全く関係のなさそうな二人の被害者が繋がり、加えてカルト教団も絡んでくる展開にはとても惹き込まれました。はじめは1日1章ぐらいのペースで読んでいこうかなと思っていたのに3章以降は続きが気になって気になって一気読み。ただ、中盤までの展開の割にはラストは少し尻つぼみだったように感じました。
あと千佳の母には最初訪問した時、泉は広報の仕事としか言っていなかったはずなのに浅羽送検後に訪問したときは「最期の1週間千佳が何をしていたか知りたいから情報をもらえないか」と千佳の母が泉にお願いをするシーンで泉が警察勤務って知ってたの?て疑問を持ちました。私が見落としていただけか??
この小説は泉が警察官になることを決意して最後終わりますのでシリーズ化間違いなし!今後が非常に楽しみです。2024年6月21日には実写映画が公開されます。森口泉役には杉咲花さん、富樫隆幸役には安田顕さんということなのでラストシーンでの二人の対峙は非常に見応えがありそうです。
そして終章で披露した泉の推理は事実かどうか本書では明らかになっておりません。これも続編への布石でしょうか。しかし、私は泉の推理がほぼ真実だったのではないかと思います。
「なあ、覚えてるか。お前は以前、俺に、公安は安西をマークしていたのか、と聞いたな。そのとき俺は否定しなかった。それは、公安が安西をマークしていたのは認める、というサインだ。公安が安西をエスとして飼っている、という意味じゃない」
柚月裕子. 朽ちないサクラ (徳間文庫) (p.307). 株式会社徳間書店. Kindle 版.
「千佳の情報を公安に流し、浅羽がふたりを殺すように仕向けた人間、それはあなたです」 「なぜ、そう思う」 富樫は泉の見立てを、肯定も否定もしなかった。
柚月裕子. 朽ちないサクラ (徳間文庫) (p.311). 株式会社徳間書店. Kindle 版.
最後の追及シーンでも富樫は否定していません。なので認めるというサインだったのではないでしょうか。みなさんも考えてみてはいかがでしょうか^^
続編の『月下のサクラ』が2021年5月15日に発売されています。今読んでいる最中ですので読み終わったらまとめてみようと思います。
↓↓↓月下のサクラあらすじ↓↓↓
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念願かない警察広報職員から刑事になった森口泉。記憶力や語学力を買われ、希望していた機動分析係へ配属された。自分の能力を最大限に発揮し、事件を解決に導く――。
だが配属当日、会計課の金庫から約一億円が盗まれていることが発覚。メンバー総出で捜査を開始するが、犯行は内部の者である線が濃厚だった。署が混乱する中、さらに殺人事件も発生。組織の闇に泉の正義が揺れる。
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余談ですが『朽ちないサクラ』を読んでいたら、劇場版名探偵コナン『ゼロの執行人』をもう一度見たくなりました。こちらの映画は公安警察の活躍を描いた作品で人気キャラである公安警察官の降谷零(=安室透)にスポットがあてられています。おすすめなので時間がある方はぜひ見てみてください。