あらすじ
すべてが、反転。
あなたは探偵の推理を推理することができますか?
綿密な犯罪計画により実行された殺人事件。アリバイは鉄壁、計画は完璧、事件は事故として処理される……はずだった。だが、犯人たちのもとに、死者の声を聴く美女、城塚翡翠が現れる。大丈夫。霊能力なんかで自分が捕まるはずなんてない。ところが……。
ITエンジニア、小学校教師、そして人を殺すことを厭わない犯罪界のナポレオン。すべてを見通す翡翠の目から、彼らは逃れることができるのか?
ミステリランキング5冠を獲得した『medium 霊媒探偵城塚翡翠』、待望の続編は犯人たちの視点で描かれる、傑作倒叙ミステリ中編集!
Amazonより
『medium霊媒探偵城塚翡翠』についてはこちらをご覧ください。
作 者:相沢 沙呼
出版社:講談社
発売日:2021年7月7日
倒叙推理小説って何?
本作は犯人の視点で語られる倒叙推理小説です。倒叙推理小説とは犯人の視点で物語が進行して、序盤で犯人や犯行の一部はわかってます。一見すると穴のない犯行に感じますが実は穴だらけ!
では探偵はどのように犯人を追い詰めるのか?そこを推理しながら読んでいく形式の推理小説です。
ちなみに倒叙推理小説を英訳すると”inverted detective story”です
in・vert
【他】…を逆さにする,ひっくり返す,…を裏返しにする;
〈位置・順序・関係を〉反対にする;〈性質・効果などを〉逆転させる;
城塚翡翠からの挑戦状
また各編には以下のような城塚翡翠から読者への挑戦が挿入されています。
「さて、紳士淑女の皆さま、お待たせしました。ここからは解決編です。すべての手がかりは提示されました。」「犯人は自明。ただし、わたしはこう問いかけましょう。はたして、あなたは探偵の推理を推理することができますか?」
相沢沙呼. Invert 城塚翡翠倒叙集 (p.105). 講談社. Kindle 版.
あなたも城塚翡翠からの挑戦状に挑んでみましょう!
各話のあらすじ
「雲上の晴れ間」
システムエンジニアの狛木繁人は、自身が勤務する会社の社長・吉田直政の自宅に行き、吉田を浴室で転倒して溺死したように偽装して殺害する。その直後、同僚の須郷から緊急の連絡が入る。翌日、狛木は警察にアリバイを聴かれ、昨晩は急遽プログラムのバグの調査と修正を行うことになり、会社に一人で残っていたと答える。その作業は、吉田宅から片道1時間かかる会社の中でしかできなかった。しばらくして、狛木が住むマンションの隣室に城塚翡翠が引っ越してくる。
「泡沫の審判」
小学校教諭の末崎絵里は、児童や教師の盗撮を繰り返す元校務員の田草明夫を自分のクラスの教室で殺害し、田草が小学校に不法侵入して防犯システムを作動させてしまい、逃げようとして3階理科室のベランダから誤って転落して亡くなったように偽装する。田草の死による臨時休校が明けてから数日後、小学校にスクールカウンセラーの白井奈々子が赴任する。浮いた服装とぶりっ子な言動でなにかと絵里を苛立たせる奈々子の正体は、学校に潜入した翡翠だった。
「信用ならない目撃者」
探偵事務所の社長・雲野泰典は、社員の曽根本のマンションを訪問し、彼を射殺する。窓辺に立った雲野は、50メートル先の対岸にある雑居ビルのベランダに、女性の人影を見つける。雲野は悩んだ末、犯行は見られていないと判断し、曽根本が拳銃で自殺したように偽装してその場を立ち去る。そのころ、涼見梓は母に電話し、興奮した様子で今見た光景を伝えていた。ベランダでビールを飲んでいた梓は、対岸のマンションの一室で男が拳銃を構える姿を目撃していた。
推理小説とは”推理する小説”
みなさんにとって推理小説とはどのようなものでしょうか?
この問いに対して作者の相沢沙呼さんは城塚翡翠というキャラクターを通して本書で明確に意思表示をされています。
「推理小説においても、読者にとって論理は蔑ろにされるもののような気がします。たいていの人たちは、ぼんやりと犯人がわかればいいと思っているんです。なんとなく犯人の予測がつけられれば、先が読めただの言って満足してしまう。誰もが納得できる論理なんてまるきり無視です。そんなんだから、作者がわざと犯人がわかるように書いてある小説ですら、自分の力で犯人を見破ってやったんだと思い込んで悦に入ってしまうんですよ。だから、犯人が最初からわかっていたりすると、とたんに興味を失って、考えることをやめてしまう」
「推理小説は、推理を楽しむよりも、驚くことが目的となって読まれているんじゃないでしょうか。意外な犯人に意外な結末。推理小説といいながら、驚きの犯人や意外な結末さえ示せれば、探偵の論理なんてどうでもいいのです。そんなのに夢中なのは作者と一部のマニアだけ。犯人を当てたい人たちも、論理を組み立てたいわけじゃなくて、勘で察して当たった快感を得たいだけなのです。なんとなくわかったで済むのなら、探偵も警察も検事も要らないのに」
「ミステリとは、すなわち謎、そして推理小説とは、つまり推理をする小説……。だというのに、普通の人たちが求めているのは、びっくり小説、驚き小説、予測不可能小説なんですよ」
「犯人を当てるだけなら、ダイスにだってできます。登場人物表に番号を割り振るだけでいいのですから。本当に大事なのは、犯人を特定するに至る創造性溢れる論理ですよ。その論理を構築するのは、人間にしか為し得ないことなのです……」
相沢沙呼. Invert 城塚翡翠倒叙集 (pp.316-317). 講談社. Kindle 版.
ちょっと長くなりましたが、引用させていただきました。
簡単にまとめると
読者のみなさんは意外な犯人に意外な結末といった驚くことを目的に推理小説を読んでいませんか?
いやいやそうじゃないでしょ!
犯人を特定するに至る論理を構築する過程を楽しむことこそが推理小説の醍醐味!!
私はこのページを読んでからは残りのページの読み方がガラリと変わりました。
いやはや私も「大どんでん返しや衝撃のラスト」そういった帯に惹かれて推理小説を買ってしまうこともあるのでこの部分はほんとに胸に刺さりました。
medium読んでinvert読むと、よりこの部分が印象に残ります。mediumに対してのinvertでもあったのかと思いました。
カバーイラストのヒ・ミ・ツ
カバーイラストはmediumに引き続き遠田志帆さんが担当。城塚翡翠の二面性を表現するために、ゆるふわな翡翠と探偵の翡翠が描かれています。小説を読了後に装幀を見ると、新しい解釈ができるように仕掛けられていますよ。
余談ですが、遠田志帆さんのイラストってものすごく惹きつけられますよね!他にもメジャーなところでいうと綾辻行人先生の『Another』シリーズや今村昌弘先生の『屍人荘の殺人』(剣崎比留子シリーズ)のイラストを手掛けられています。
テレビドラマ化
『invert 城塚翡翠 倒叙集』のタイトルで、2022年11月20日から12月25日まで、日本テレビ系「日曜ドラマ」枠で放送されました。主演は清原果耶さん。
原作には小説の続編となる『invert II 覗き窓の死角』を含む。
同年10月16日から11月13日まで放送された、同枠の前番組『霊媒探偵・城塚翡翠』からストーリー上直接つながる続編として、連続ドラマ史上初となるタイトルとビジュアルを一新した同一主人公による新ドラマとして制作されました。
城塚翡翠・・・清原果耶さん
香月史郎・・・瀬戸康史さん
千和崎真・・・小芝風花さん
鐘場正和・・・及川光博さん
最後に
mediumであれだけ高い評価を得たにも関わらず、形式を大きく変えてきた続編のinvert城塚翡翠倒叙集。
最初はその理由がわかりませんでしたが、上述の通りある部分を読むとその理由に納得しました。mediumを書いたからこそのinvertだったんだなあ。
これからも城塚翡翠シリーズ・相沢沙呼さんに目が離せません。